非常食と聞くと乾パンを思い浮かべますが、硬い食品は入れ歯を使っている人に適さない場合があります。
非常時に食べられない食品ばかり備えていても、必要なエネルギーや栄養を十分に取れません。
先に結論をまとめると、入れ歯を使っている人の非常食は、乾パンだけに頼らず、次の食品を組み合わせるのがおすすめです。
- そのまま食べられるレトルトおかゆ
- 水またはお湯で作れるアルファ米のおかゆ
- 歯ぐきや舌でつぶせるレトルト食品・缶詰
- 食器や調理が不要な長期保存ゼリー
- 普段から食べ慣れている介護食
「入れ歯で噛めること」と「安全に飲み込めること」は同じではありません。普段からむせることがある人や、医師・歯科医師などから食事形態の指示を受けている人は、その指示を優先してください。
この記事では、入れ歯でも食べやすい非常食の選び方、3日・1週間分の備蓄例、入れ歯の手入れに必要な防災用品を紹介します。
入れ歯でも食べやすい非常食の選び方
入れ歯を使用している人の非常食は、単に「やわらかい」と書かれている食品を選ぶだけでは不十分です。
次の5点を確認しましょう。
- 本人が普段から食べている硬さか
- 水やお湯がなくても食べられるか
- 冷たい状態でも食べられるか
- 一度に食べ切れる量か
- 本人または介助者が容器を開けられるか
ユニバーサルデザインフードの区分を確認する
食品のパッケージに「ユニバーサルデザインフード(UDF)」の表示がある場合は、硬さや食べやすさの目安を確認できます。
| 区分 | 硬さの目安 |
|---|---|
| 区分1 | 容易にかめる |
| 区分2 | 歯ぐきでつぶせる |
| 区分3 | 舌でつぶせる |
| 区分4 | かまなくてよい |
入れ歯を使っている人全員に同じ区分が適するわけではありません。
部分入れ歯で一般的な食事を噛める人と、総入れ歯で硬い食品が難しい人、飲み込む力も弱くなっている人では、必要な食品が異なります。
普段食べている食事の硬さに近い区分を選び、平常時に一度食べて確認することが大切です。
硬い乾パンを主力にしない方がよい理由
乾パンは長期保存でき、調理せず食べられる便利な非常食です。
一方で、硬くて水分が少ないため、入れ歯の状態によっては次の問題が起こる可能性があります。
- 噛むときに歯ぐきへ負担がかかる
- 入れ歯が動いて痛みを感じる
- 破片が入れ歯と歯ぐきの間に入る
- 口が乾いていると食べにくい
- 十分に噛めず、食事量が減る
- 飲み込むために多くの水が必要になる
乾パンを備えてはいけないという意味ではありません。家族のほかの人が食べる分として残しつつ、入れ歯を使う本人には、おかゆややわらかいおかずを別に用意しましょう。
また、パン、餅、キャラメルなどは、やわらかそうに見えても入れ歯へ付着しやすい食品です。硬さだけでなく、べたつきや口の中でのまとまりも確認してください。
入れ歯でも食べやすい非常食の比較表
| 食品 | 調理 | やわらかさ | 主な役割 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| レトルトおかゆ | そのまま食べられる商品あり | やわらかい | 主食 | 商品ごとに加熱方法を確認 |
| アルファ米の白がゆ | 水またはお湯が必要 | 水量で調整可能 | 主食 | 保存水が必要 |
| やわらかい缶詰 | 基本的に調理不要 | 商品による | 主菜・おかず | 缶を開ける道具を確認 |
| レトルト介護食 | そのまま食べられる商品あり | UDF区分で選べる | 主食・主菜・副菜 | 賞味期限は商品ごとに異なる |
| 長期保存ゼリー | 不要 | 噛む負担が少ない | エネルギー・水分の補助 | 主食やおかずの代わりにはしない |
| 栄養補助飲料 | 不要 | 噛む必要がない | 栄養補助 | むせる人は専門家へ相談 |
主食におすすめのやわらかい非常食
尾西食品の白がゆ
尾西食品の白がゆは、製造月から5年6か月保存できるアルファ米のおかゆです。
UDFでは「歯ぐきでつぶせる」に該当し、公式サイトでも高齢者向けの非常食として紹介されています。
| 出来上がり量 | 245g |
|---|---|
| 必要な水・お湯 | 203ml |
| 調理時間 | 熱湯15分・水の場合は商品表示を確認 |
| エネルギー | 150kcal |
| 付属品 | スプーン・食塩 |
| アレルギー | 特定原材料等28品目不使用 |
水の量によって、おかゆとやわらかご飯の硬さを調整できます。
ただし、作るための水が必要です。白がゆ1袋につき約203mlの保存水を、飲料水とは別に計算しておきましょう。
非常食用のご飯全体を比較したい方は、以下の記事も参考にしてください。
非常食のご飯おすすめ7選|アルファ米・リゾット・フリーズドライを比較
調理不要のレトルトおかゆ
停電や断水直後には、水を加えなくても食べられるレトルトおかゆが便利です。
レトルトおかゆを選ぶときは、次の表示を確認します。
- 常温保存できるか
- 加熱せず食べられるか
- 未開封の賞味期限
- 1袋の内容量
- エネルギー量
- 食塩相当量
一般的なおかゆは水分が多く、同じ重量のご飯よりエネルギーが少ない傾向があります。おかゆだけで備蓄を完結させず、やわらかい肉・魚・卵のおかずや栄養補助食品を組み合わせてください。
ふっくらおかゆ
「ふっくらおかゆ」は、温めずに食べられる備蓄用のおかゆです。
- 内容量200g
- 賞味期限36か月
- 舌でつぶせるやわらかさ
- 適度なとろみ
- 食塩無添加
- 水や加熱が不要
断水時でも袋を開けて食べられるため、水で戻すおかゆと組み合わせて備えると状況に対応しやすくなります。
おかずにおすすめのやわらかい非常食
ソフミールやわらか缶詰
ソフミールやわらか缶詰は、噛むことに不安がある人に向けて、歯ぐきでつぶせるやわらかさに仕上げられた総菜缶詰です。
おかゆだけでは不足しやすいたんぱく質や脂質を補うため、肉や魚を使ったやわらかいおかずも用意しましょう。
缶詰を選ぶ際は、次の点を確認してください。
- 本人が食べられる硬さか
- プルトップで開けられるか
- 1回で食べ切れる量か
- 塩分やアレルギー表示
- 常温のままでも食べやすいか
キユーピー やさしい献立
キユーピーの「やさしい献立」には、硬さに合わせたレトルト介護食があります。
「舌でつぶせる」区分では、次のような商品が確認できます。
- 鶏雑炊
- 鯛雑炊
- かに雑炊
- 鮭雑炊
- やわらか肉じゃが
- やわらかぶり大根
- やわらか大根の鶏そぼろあん
- なめらか野菜
防災専用の長期保存食ではない商品もありますが、普段の食事で消費し、食べた分を補充するローリングストックに向いています。
本人が普段食べている商品なら、災害時にも味や食感の変化が少なく、受け入れやすくなります。
ゼリー・栄養補助食品も組み合わせる
inゼリー エネルギーロングライフ
inゼリー エネルギーロングライフは、製造後5年間保存できる防災備蓄用のゼリー飲料です。
- 食器不要
- 調理不要
- 1袋180g
- 1袋180kcal
- トロピカルフルーツ味
- 特定原材料等28品目不使用
噛む負担が少なく、水分とエネルギーを一緒に補助できます。
ただし、ゼリーだけでは食事全体の代わりになりません。おかゆややわらかいおかずと組み合わせてください。
リポビタンゼリー長期保存用
リポビタンゼリー長期保存用も、噛む負担が少ない防災備蓄用ゼリーです。
1袋100gで200kcalと、比較的小さい袋でエネルギーを補助できます。
商品の詳細やinゼリーとの違いは、以下の記事で比較しています。
リポビタンゼリー長期保存用はどこで売ってる?賞味期限5年・販売店を調査
飲み物でむせる人は自己判断で選ばない
「噛まなくてよい食品なら安全」とは限りません。
水やお茶を飲むとむせる人は、ゼリー飲料や栄養補助飲料の硬さ・粘度が合わない可能性があります。
普段から食事形態やとろみについて指示を受けている場合は、医師、歯科医師、言語聴覚士、管理栄養士などに相談し、本人に合った商品を備えてください。
入れ歯を使う人の3日分の備蓄例
1人分・3日間の一例です。
| 食品 | 数量例 | 役割 |
|---|---|---|
| 調理不要のレトルトおかゆ | 3食 | 断水直後の主食 |
| アルファ米の白がゆ | 3食 | 保存水が使えるときの主食 |
| やわらかいレトルトおかず | 6食 | たんぱく質・副菜 |
| やわらかい缶詰 | 3缶 | 主菜 |
| 長期保存ゼリー | 3~6個 | エネルギーと水分の補助 |
| 普段飲んでいる栄養補助食品 | 必要数 | 不足分の補助 |
| 保存水 | 飲用・調理・服薬分 | 水分補給と調理 |
これは一般的な組み合わせ例であり、必要量を保証するものではありません。
普段の食事量、持病、服薬、塩分制限、アレルギー、飲み込む力に合わせて調整してください。
ご飯の必要数を家族人数別に計算したい場合は、以下の記事をご覧ください。
1週間分へ増やすときの考え方
3日分をそろえた後は、同じ構成を単純に倍以上へ増やすのではなく、味と食感を分散させます。
- 白がゆだけでなく、雑炊ややわらかご飯も入れる
- 魚、肉、卵、大豆のおかずを分散する
- 甘いゼリーと甘くない食品を組み合わせる
- 調理不要食品と水で作る食品を両方備える
- 1食で食べ切れる小容量の商品を選ぶ
避難生活では冷蔵庫が使えない可能性があります。開封後に残った食品を安全に保存できないため、大容量品だけでなく食べ切りサイズも用意しましょう。
スーパーで日常用の食品をそろえる方法は、以下の記事で紹介しています。
スーパーで買える非常食15選|水・火なしで食べられる食品と売り場を紹介
おかゆだけではエネルギーや栄養が不足しやすい
やわらかく食べやすいからといって、毎食をおかゆだけにするのはおすすめできません。
おかゆは水分が多いため、ご飯より少ない量の米しか含まれていない商品もあります。食が細い人では、食べた量の割にエネルギーが不足する可能性があります。
次の食品を組み合わせましょう。
- やわらかい肉・魚・卵・大豆のおかず
- 栄養補助ゼリー
- 栄養補助飲料
- やわらかい野菜のレトルト食品
- 本人が普段使用している栄養補助食品
医師や管理栄養士から食事制限を受けている場合は、自己判断で高カロリー食品や塩分の多い食品を追加せず、指示に合う備蓄を準備してください。
入れ歯用品と口腔ケア用品も備える
入れ歯を紛失・破損すると、それまで食べられていた非常食が食べられなくなる可能性があります。
非常持ち出し袋には、食品と一緒に次の用品を入れておきましょう。
- 入れ歯ケース
- 義歯用ブラシ
- 入れ歯洗浄剤
- 口腔ケア用ウェットティッシュ
- 液体歯みがき
- 本人が普段使用している義歯安定剤
- 小さなコップ
- 口腔ケアに使用する清潔な水
避難するときは、入れ歯を口に装着するか、専用ケースへ入れて持ち出します。ティッシュに包むだけでは、ごみと間違えて捨てたり、破損したりするおそれがあります。
災害時も歯みがきや入れ歯の清掃を続け、口の中を清潔に保つことが大切です。
平常時に試食して確認する
ケース単位で購入する前に、本人が実際に食べて次の項目を確認します。
- 入れ歯で無理なく噛めるか
- 歯ぐきに痛みが出ないか
- 入れ歯の下に入り込みにくいか
- 口の中でまとまりやすいか
- 飲み込むときにむせないか
- 冷たい状態でも食べられるか
- 1袋を食べ切れるか
- 本人が容器を開けられるか
食べられた商品だけを少し多めに購入し、期限が近いものから食べて補充するローリングストックにすると、非常時に初めて口にする食品を減らせます。
入れ歯でもせんべいや保存パンは食べられる?
入れ歯の状態によって異なるため、一律には判断できません。
口どけを重視した「おかゆみたいなせんべい」のような商品もありますが、主食として十分なエネルギーを取れる商品ではありません。また、口コミには口の中の水分を取られると感じた人もいます。
商品情報や備蓄時の注意点は、以下の記事で詳しく解説しています。
おかゆみたいなせんべいはどこで売ってる?賞味期限5年・対象年齢を調査
保存パンも一般的な乾パンよりやわらかい商品がありますが、パンは口の中でまとまって入れ歯へ付着することがあります。本人が平常時に試食し、水分と一緒に無理なく食べられるか確認してください。
よくある質問
入れ歯なら乾パンを備えない方がよいですか?
家族のほかの人が食べる分として備えることはできます。ただし、入れ歯を使用する本人の主力にはせず、おかゆ、やわらかいおかず、ゼリーなど、普段食べられる食品も別に準備してください。
アルファ米を水で長く戻せばやわらかくなりますか?
商品表示どおりの水量と時間で作る必要があります。水量や待ち時間が足りないと硬さが残る可能性があります。入れ歯で食べる場合は、ご飯タイプよりも白がゆなど、やわらかさを想定した商品が選びやすいでしょう。
レトルト介護食は非常食になりますか?
未開封で常温保存でき、加熱せず食べられる商品なら、ローリングストックに利用できます。ただし、防災専用商品より賞味期限が短い場合があるため、期限を定期的に確認してください。
ゼリー飲料だけを3日分備えてもよいですか?
ゼリー飲料だけでは、食事全体に必要な栄養を補いにくいためおすすめできません。やわらかい主食とおかずを基本にし、ゼリーは水分やエネルギーの補助として使います。
細かく刻めばどの非常食でも食べやすくなりますか?
必ずしも食べやすくなるとは限りません。細かすぎる食品は口の中でまとまりにくく、入れ歯の下へ入り込むことがあります。本人が普段食べている形態と、UDF区分などを参考にしてください。
入れ歯を紛失・破損した場合はどうすればよいですか?
硬い食品を無理に食べず、避難所や行政の相談窓口へ伝えてください。利用できる歯科支援がある場合は、歯科医師や歯科衛生士へ相談します。
まとめ|乾パンだけに頼らず、普段食べられるやわらかい食品を備える
入れ歯を使っている人の非常食は、保存期間の長さだけでなく、本人が実際に食べられるかを優先して選びます。
- 硬い乾パンを主力にしない
- 調理不要のおかゆと、水で作れるおかゆを組み合わせる
- 歯ぐきや舌でつぶせるおかずも用意する
- ゼリー飲料は食事ではなく補助として使う
- 普段食べている介護食をローリングストックする
- 入れ歯ケースや口腔ケア用品も備える
- 平常時に本人が試食する
行政や避難所から提供される食品が、本人の食べられる硬さとは限りません。
最低3日分、可能であれば1週間分を目安に、本人が普段から食べ慣れているやわらかい食品を家庭で備えておきましょう。


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